2020年度日本造園学会全国大会ミニフォーラム資料より

1.今回のミニフォーラム背景と意義

 神戸市の六甲山系は都市近郊という立地から、現在では公有林が半分を占めている。その中で、北側山麓は組合や自治協議会など入会起源の大規模な所有形態が残っている。
 六甲山系は国立公園でもあり、多くの市民に親しまれているが、利用者にとって、土地所有や維持管理に関する課題にはなかなか結びつかない。今回のフォーラムは、「所有者に対して利用者など近郊の都市住民がどのように関わっていくことができるか」、「都市と森林の連携」の仕組みづくりにつなげていくことを目的としたものであった。

2. 話題提供

① 「六甲山森林整備戦略と私有林整備の支援」              田村 悠旭(神戸市建設局防災課)

 神戸市は2012年に六甲山森林整備戦略を策定した。六甲山系は、100年前から植林が開始され、緑を復元した山であることから、緑地保全、災害防止あるいは自然公園区域など、伐採の制限など規制が中心の山であった。近年、危険な大径木の増大、多様性の減少、表層の貧弱化などの課題も大きくなっており、私有林も含めた公益性の確保を示している。このため、神戸市では六甲山系の南山麓を所有する財団法人、山上区域を所有する企業と、そして北側を中心に残っている私有林を管理する組合と色々課題を議論しながら、森林整備への支援や公共が主体となって出来る事業の導入などの意見交換を進めてきた。従来と異なり、「里山や自然の応援団」ではなく、地域森林を維持してきた所有者や地域住民の意識も大切にしてきた。下唐櫃地区との連携は、私有林関与の公的モデルとしてスタートした。森林再生だけではなく、引き続き、資源の活用、外部との連携など、全市的に取組んでいきたい。

「協働を通じた森林協治は可能か? ―6年間の試行錯誤を通じて」      三俣学(同志社大学経済学部)

 兵庫県立大学環境経済学研究室では、自給的あるいは商品的な森林利用の減少から、それらを基盤にしていた農山村の衰退、森林環境の質の劣化について研究をしてきたが、2014年度からの学生のフィールドワークの場として、下唐櫃林産農協との関りをもってきた。
この中では、実際の間伐などの作業体験、組合員からのヒアリング、日常的に散歩など山を利用する人々からのアンケート調査などを行ってきた。
森林との関りについては、所有者と外部者との価値観の相違はあるものの、相互の関わりによる森林価値の再構築については、双方ともにプラスになりうる。共有材の経済的価値の低迷と展望が開けない状況の中では、内部の自治力を引き出す外部者の「かかわり」、他方で、信頼関係の構築をベースとする「開かれた地元主義」などが重要になる。

「六甲山唐櫃エリアにおける 地域資源としての植物」          田淵 美也子(兵庫県立大学)

 唐櫃では地域により森の手入れが継続してきた。このため、林床には多様な植物が育っている。森林の魅力を地域の方々のみならず、外部利用者へアピールすることで、森林の整備などに理解や参加の入り口にしていきたい。
 多様性のある植生としては、「観賞価値が高く、やや稀少な種類」「魅力的な景観を作る」「地域の特徴的な種類」「ランドマークとなる巨樹」「食用や装飾」「祭事などに使用できる」「新しい森の資源の可能性」このような視点から地域の植物を2017年春から観察してきており、地域と一緒に作成したマップづくりなど、協働の第一歩としてきた。
 集落から700mくらいの山頂まで、アジサイの仲間が多くみられる。開花期には見ごたえがあり、園芸的に遺伝子資源となりうる可能性もあり、神戸市立森林植物園と調査を行っている。

  ④「六甲山と唐櫃について」 吉田 進(下唐櫃まちづくり協議会会長)

 唐櫃は、六甲山系の中でも広く山林を所有しており、古くは六甲山上までが唐櫃の山であった。
 唐櫃地区には、3つの組合があるが、そのうち下唐櫃林産農協の組合員は各戸1名で現在44名で平均年齢が68.2歳、山林経験者は63名で平均61.8歳の内実作業出来る方は38名で平均51.2歳となっている。山林作業については、近年は災害も多発していることから、人工林の間伐の実践ではなく、崩壊地や管理道の補修のような作業も多い。
 山の名称等も知らないし行く道すら解らない人が増えてきており、魅力発信を地域住民の方にも行っているところである。かつてのアカマツ林の森林整備や、兵庫県立大学などフィールドとして地域との交流などを行っている。
 防災の面や環境面から山林を守って行く必要があり、どのように管理して行くかが問題であり、特に山林を理解した後継者の育成が急務であり、それと同時にボランテアや多方面の協力者と一緒に出来る方法を考えている。

3.その他提供資料

関連として以下の資料提供をいただいた。
◆資料1 地域個体の保存と公設植物園の担う役割 
六甲山におけるヤマアジサイ調査・保存の事例  (神戸市立森林植物園)
◆資料2  木こり合宿について(下唐櫃まちづくり協議会、六甲山専門学校)
◆資料3  下唐櫃4年間の記録 (兵庫県立大学大学院修了生 川添 拓也)

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